'72年ポサダス生まれのギター奏者オラシオ・カスティージョはラウル・バルボーザやリリアナ・エレーロらとも共演経験を持つ名人で、'09年に35歳の若さで惜しくも高速道路上の事故で亡くなってしまいました。一方のフリオ・ラミレスはリリアナ・エレーロ「Litoral」やフアン・キンテーロ&ルナ・モンティ「Lila」にも参加する'84年バランケラス生まれのバンドネオンとボタン式アコーディオン、どちらも熟す鍵盤奏者です。二人とも本作見開きに賛辞の言葉を寄せるコキ・オルティス(vo,g)と共に演奏する機会が多かったプレイヤーでもあります。'07年フォンド・ナシオナル・デ・ラス・アルテス(国立芸術基金)のコンテストで一位に輝き、その助成と制作が決定したCDアルバムなのですが、出版されたのはこの'16年になってから。人情味溢れる舞踏のリズム、チャマメのm-5"Los amigos de la ronda" を始め、サ(za)ンバやワルツなどを用いた川沿いのフォルクローレは、水のほとりで営まれる日々の暮らしを讃えるように清々しいエネルギーに満ちています。10曲中の7曲がオラシオ・カスティージョの自作曲で、例え早いパッセージにおいても音ひとつひとつの重みを噛み締めているかのようなオラシオのギター・プレイ、そしてボタンとボタンの間を優雅に輪舞するようなフリオ・ラミレスとのコンビネーションは説得力抜群。
様々なゲストを迎えた10周年ライヴ盤、そしてタンゴやら何やらサンバ以外のものを全て注ぎ込んだジョアン・カヴァルカンチのソロ「Pracebo」を経ているというのも大きいのかも知れません。ハファエル・アルテリオ(ペドロ・アルテリオ/シンコ・ア・セコの実父)が所有するサンパウロ郊外の農場にあるスタジオで制作された本作では、軽妙に転がるタンタンやパンデイロのリズムと7弦g、バンドリン、カヴァキーニョに唄というクインテートのいつものパゴーヂ・アンサンブルに加えて、ジャズの多大な影響下にあるネルソン・フレイタスのピアノやコントラバスにドラムスというジャズ・トリオの編成が丸ごと参加、キューバ音楽やサンバ・ジャズの様相を呈する場面も多くあります。特に驚かされるのが、スーパー・マリオBros.2 のテーマをジングル的に引用したm-2"Firme e Forte"。ジョアン・カヴァルカンチとモアシール・ルスの共作によるm-7"Eu Já Posso Me Chamar Saudade"には、ブラジル国民全体から絶大な支持を受けるマリア・ヒタがゲスト・シンガーとして参加。良質なパゴーヂ・サンバとトロピカル・ジャズのエッセンスが相互に巧く作用したm-11"Chicala" など新たな定番となりそうな名曲も。
そのブラジル国民全体から絶大な支持を受ける女性スター歌手、マリア・ヒタの最新作も入荷しています。
二作目となるサンバをテーマにした作品「Coração A Batucar」のレパートリーを中心に、マリア・ヒタの夫であり、母エリスのトリビュート・ライヴ以来参加するダヴィ・モライス(g)、ハンニエリ・オリヴェイラ(key)、マルセロ・リニャリス(b)、ヴァラシ・サントス(drs)、マルセリーニョ・モレイラ(per)、アンドレー・シケイラ(per)というメンバーでサンバのメッカであるリオのラパで収録されたライヴ実況録音盤。"É Corpo, É Alma, É Religião"(アルリンド・クルス、ホジェー、アルリンド・ネト作)に始まり、m-2で1st「Maria Rita」収録の"Cara Valente"(マルセロ・カメロ作)を、m-3"Maltratar Não É Direto"は「Samba Meu」に収録されている楽曲、「Elo」に収録のm-8"Coração A Batucar"に続くm-9"Coração Em Desalinho"は「Elo」のボーナス・トラックとして収録された楽曲、と多岐にわたるアルバム収録曲を、カヴァキーニョの代わりを果たすダヴィ・モライスのegの奏法、epでジャズのエッセンスを振りまくハンニエリ・オリヴェイラの鍵盤、そしてサンバのグルーヴを醸し出す打楽器隊という新鮮味を感じさせるアンサンブルで体現。CDは13曲を収録。DVDには20曲を収録。
川沿い音楽の手法で描き出されたメリー・ムルーア自作のm-2"Tu Mama Calma"やタイトル・トラックm-10"Sal"からは零れ出る母性的な優しさを感じさせますし、こじんまりと可愛らしい造りの自作ボサ・ノヴァm-8"Mandarino"と、観衆のハンド・クラップと一体感を見せるチャカレーラm-9"Viernes de Salamanca"(アナ・ロブレス)が並列で収められていたり、コルドバ出身の作曲家チャンゴ・ロドリゲスの楽曲"Luna de Tartagal"を同じくコルドバ出身のアルマ・モーラ(vo&g)と本格フラメンコのスタイルで異訳したm-3と、彩り豊かな仕掛けが施された質の高いショーを収録。スタジオ盤に遜色ない歌唱・演奏と、ライヴの臨場感を存分に味わえます。ボーナス・トラックとして当日バックを務めた面々をフィーチャーしたアニバル・トロイーロ"Garúa"、レギサモン"Zamba para la viuda" と二曲のインスト・エディションを収録、演奏者への深い敬愛をも提示しています。
景色を描き出すようにゆったりとしたリズムと非日常感を醸し出す優雅なチェンバー・アンサンブル、そこに載るのがポップで情緒にあふれた旋律を辿るナチュラルな唄声。このベッチ・アミンは言語療法の課程を修めると同時に、コーラルUSPなどヴォーカル・グループでキャリアを開始、米国でも華々しい活躍を見せるジャズ・シンガー、ルシアナ・ソウザに師事を受けるなど、20年に渡りインターナショナルにその素養を育んできた音楽探求家。ここに花開いたソロ三作目となる「TÚNEIS」は、ベッチ・アミン自らのコンポジションと、サンパウロ大学芸術学部のアルヴァロ・ファレイロス教授らが行った詩作、弦楽三重奏や時にはコントラバスのオブリガートにスポットを当てた革新的な編曲、常識を覆すフリューゲルホルン(シヂマール・ヴィエイラ、シヂエルの兄弟)やカヴァキーニョの用い方と、ミキシングは特異なギター・サウンドで注目を浴びるフェルナンド・カタタウ(シダダォン・インスチガード)が手掛けていたり、と創意工夫の溢れんばかり。"Á La Même Heure"ではフランス語歌詞が聴こえてきたり、1930年に亡くなったアルゼンチンの詩人アルフォンシナ・ストルニの遺作に節をつけた"Alma Desnuda"があり、ルリーニャ・アレンカールのアコーディオンをフィーチャーした新感覚のフォホー"Tantas Águas"もあり、とロマンチックな歌曲に加えて群を抜いたロジカルなつくりに唯々感嘆。
ガウシャとはカウ・ガールのことで、アルゼンチンやパラグアイの国境近くのブラジル南部出身者の総称でもあります。其処で生み出される音楽は隣国の川沿い音楽にも通じるメランコリー成分を含有するのが特徴で、センチメントな旋律を好む我々にとっても親和性を覚えやすい傾向にあります。さてこのジゼリ・ヂ・サンチは南部の主要都市ポルト・アレグリから、音楽活動のためにサンパウロへと移住しており、今作の制作期間中、公私ともにパートナーであるホドリゴ・パナッソロとの間に第一子となる男の子を出産。夫婦の共作となるタイトル・トラックm-1"Casa"や、スーパー・ギター奏者ヤマンドゥ・コスタと共作されたm-13"Bem-Vindo"など、慈しむような優しい唄の数々は、新たな命を宿した喜びに溢れています。ルイス・マウロ・フィーリョのピアノとほぼ一発録りで収録された唄たちの中、突出した出来栄えを見せるのが同じく南部出身者ヴィトール・ハミル作m-8"Astronauta Lírico"。アカペラを彩るミニマムなピアノとヴァギネル・クーニャのヴァイオリンの研ぎ澄まされたアレンジが涙を誘います。声とピアノを主体としたアルバムということで、フォーレのクラシック曲にポルトガル語歌詞が載ったm-4"Quando eu sonhei"や、ビートルズ"Fool on the hill"の厳かなカヴァーm-11、そしてMPBのレパートリーの中でも神聖なアンサンブルにフィットする、ジャヴァン"Nobreza"、シコ・ブアルキ=ギンガ"Você, você"、カエターノ・ヴェローゾ"Sete mil vezes"などを採り上げています。