潔いほどに、研ぎ澄まされた音数のみで表現しようという意欲が感じられる作品です。マリア・ガドゥがゲスト参加したm-4"Pensando bem"以外は、全てトとゼー・ルイスの二人のみによるアンサンブル。2012年にトがプロモーション・ツアーでフランスを訪れた際、バイーアからフランスに移住し20年のキャリアを築いてきたゼー・ルイスとのプレイに感銘を受けたのがきっかけ。前作「オンテン・オージ・アマニャン(昨日、今日、明日 /'14 Rambling Records/ ライナーノーツは伊藤が担当)」では、サンパウロの名プレイヤーたちに弦楽四重奏まで参加し、非常に凝った作りでしたが、今作では優れたメロディ・メイカーであることを実証するのと同時に、プレイヤーとしても洗練された技巧の持ち主であることを表しているかのよう。冒頭、盟友ペドロ・ヴィアーフォラのお父さんであるハファエル・アルテーリオとクレベール・アルブケルケの作 "Xi, de pirtuba a santo andré"から、レニーニに影響を受けたということを公言しているトのソウルフルなバチーダに、ゴースト・ノートやタブラのような余韻をも活かしたハイブリッドなゼー・ルイスのドラミング。続いてはコンテンポラリー・ジャズにも通じる深遠なヴォイシングが施されたトのピアノ弾き語りが聴かれる"Meu coração e o seu"、トの多重録音コーラスが施されたm-6"O que tinha de ser"に、ヴォイス・パーカッションが導入されたm-7"Eu sou outro"。ダニロ・モライスやヒカルド・テテにカエー・ホルフセン、ヴィニシウス・カルデローニらシンコ・ア・セコのメンバーら、ノーヴォス・コンポジトーレス勢の作品や共作が為された楽曲にはどれも新鮮で爽やかな聴感を覚えます。シンコ・ア・セコのライヴ盤で既出のm-8"Faça desse drama"や、m-10"Ou não"もデュオ編成用にヴァージョンを変えて収録。
繊細で洗練された音色を醸し出す本職の7弦ソロ・ギターの楽曲、そこにピッコロ・ギターを多重録音したトラック。前作とコンセプトを同じくした、それぞれの楽曲に多彩な音楽家たちを招き入れ、マンツーマンでの解釈を施したトラック達。日本人ケーナ奏者 - 岩川光とのセッションm-2"Maiz de Viracocha"、m-9"Balderrama"、カルロス・アギーレのpと心を共鳴し合っているかのようなm-5"Coplas del Regreso"、シネシ楽曲をヴォーカルで解釈したメンドーサの女性シンガー- グアダルペ・ゴメスの声の存在感が映えるm-3"Cartas de Amor Que Se Queman"、ebやperにフルートも参加したコンテンポラリー・タッチなフル・バンドを背にマリーナ
・サンティジャンがスキャットを聴かせるm-6"El Aveloriao"、シルビア・イリオンドの慈しむような唄とギターにvlnが呼応したm-11"Elogio del Viento"、"Cuchicheo" #1 ~ #4 まではモノ・フォンタナのコズミックな鍵盤とキケ・シネシの10弦ギター、そこにクチ・レギサモン本人の声をサンプリング引用したという次元さえ飛び越えたトラック。
ここでも絶賛のコメントを寄せているジルベルト・ジルの「Fé na festa」('10)のツアー・メンバーにこの二人のプレイヤーがクレジットされたのがきっかけ。ドミンギーニョスに師事を受けたメストリーニョの敬愛の念からか、m-1"Nilopolitano"はドミンギーニョス作。そしてニコラス・クラシッキがフランス出身だからというだけではなさそうですが、シヴーカとシコ・ブアルキ作のワルツm-4"João e Maria"を演奏すると途端にミュゼットのような、ヨーロッパ音楽の優美な感触に捉われてしまうのです。古い50年代のショーロ曲m-6"Diabinho maluco"(ジャコー・ド・バンドリン) やm-8"Desvairada" (ガロート)などはさりげなく速いパッセージを応酬し合い、折り重ねていくといった具合。ひときわ室内楽の香りが漂うヴィラ=ロボス m-9"Melodia sentimantal" に、"Cordestinos"などそれぞれのソロ・アルバムに収録されているオリジナル・コンポーズの再演、ブラジルならではのアコーディオン奏法が光る著名なm-11"Feira de mangaio"まで、ブラジル音楽の多様性、中でもサロン・ミュージックのエレガントな佇まいに秀でた一枚。
複弦5コースの楽器バンドリンの現役ベスト・プレイヤーと言っても過言ではないであろう、アミルトン・ヂ・オランダ。現在40歳。ただ速く弾けるというスポーツ的な観点ではなく、この人の場合は一つのフレーズを自在に伸ばしたり縮めたりしながら、言葉を発するように説得力のあるプレイで魅せるというのが信条であるように思います。この名手が、作曲のみならず、ことばのメッセージ性や詩的な深みに高い評価を得て長年ブラジル音楽界で活躍を続けるシコ・ブアルキの歌曲をインスト仕立てにして表現。グト・ヴィルッチ(b)、或いはアンドレ・ヴァスコンセロス(b)と、チアゴ・ヂ・セヒーニャ(per)とのトリオ編成を基盤に、クララ・ヌネスの名唱で知られる"Morena de Angora" から"Piano na Mangueira"、"Quem Te Viu Quem Te Vé"まで名曲をバンドリンで解釈しているのですが、drsのブラシ・ワーク、コントラバスとの呼吸も、聞き手が身を乗り出すほど情熱に満ち溢れていて、惹きつけられずには居れません。"A Volta do Malandro"”Vai Trabalhar Vagabundo"にシコ・ブアルキ自身がゲストvoで参加、カタロニアの女性シンガーで注目を集めるシルビア・ペレス・クルスがゲスト参加した"Atras da Porta" "O Meu Amor"、イタリア人ジャズ・ピアノ奏者ステファノ・ボッラーニも"Piano na Mangueira" "Vai Trabalhar Vagabundo" に参加。ナラ・レオンが歌って一躍有名になった"A Banda"をボーナス・トラックとして収録。
■収録楽曲■
Quizás, Quizás, Quizás/キサス・キサス・キサス Bésame Mucho/ベサメ・ムーチョ Estrellita/エストレリータ Solamente Una Vez/ソラメンテ・ウナ・ベス Tico Tico no Fubá/ティコ・ティコ Aquellos Ojos Verdes/緑の瞳 La Golondrina/ラ・ゴロンドリーナ Historia de Un Amor /ある恋の物語 Quiéreme Mucho/キエレメ・ムーチョ Quién Será/キエン・セラ Perfidia/ペルフィディア Tres Palabras/あなたなしでは María Elena/マリア・エレーナ El Ombo/マイ・ショール Amor/アモール La Comparsa/ラ・コンパルサ Amapola/アマポーラ Cielito Lindo/シェリート・リンド Te Quiero Dijiste/テ・キエーロ・ディヒーステ La Música de la Gutarra Solo/ギター・ソロ奏法百科(※楽譜のみ収録)