ALFREDO DEL-PENHO / SAMBA SUJO (ブラジル直輸入盤 2,037円+税)
ラパのシーンに登場して以来、ペドロ・パウロ・マルタとのデュオや錚々たる面子とのサンバ・ヂ・ファトなど倍音を含んだ魅惑的な歌声でこの10年ほど注目を集めてきました。同時リリースとなったインスト集の方では、コンテンポラリーなシーンも見据えたかのようにスキャットを交えた室内楽アンサンブルとの新鮮なサンバを展開しましたが、こちらの歌モノでは自身が聴き込んで、歌い込んで敬愛する先達たちの楽曲をフレッシュに表現しています。アルフレード自らが7弦ギターやカヴァコにバンドリンを弾き歌い、クレジットを見渡せばサンバ・ヂ・ファトの同胞でもある打楽器奏者のパウリーノ・ヂアス、ガフィエイラ・ジャズの先駆者のひとりでもある木管奏者のエドゥアルド・ネヴィス(flute,ts)、フイ・アルヴィン(cl)、そしてジョアン・カラード(cavaquinho)に、コーラスでマルコス・サクラメント、モイゼス・マルケス、ペドロ・パウロ・マルタと同世代のサンビスタたちが勢ぞろい。ヴァレリア・ロバォンまで名を連ねています。繊細さと叙情を持ち合わせた歌い回しとショーロ的なまろやか編曲で、例えひとむかし前の楽曲だとしても、それを感じさせないフレッシュネスな空気を孕んだ15曲は、クララ・ヌネスが歌ったm-8"Moeda"、ジョアン・ノゲイラが歌ったm-7"Alem do espelho"、シロ・モンテイロが歌ったm-13"Garota Porongondons"に、「サンバは唯ひとつの音楽のジャンルに留まらないんだ。お互いに関わって実践することで人生がサンバそのものになるんだ。」というメッセージが込められたカルトーラのm-15"A cor da esperanca"までの珠玉レパートリーと、自作曲や近年惜しくも亡くなったデルシオ・カルヴァーリョとの共作曲m-10"Saudade em paz"、同世代でオルケスタ・インペリアルでも活躍するフビーニョ・ジャコビーナ作のm-4"Meio Tom" といった新しいエッセンスが違和感なく混じり合う、そんな作品です。初のソロ名義となる本作とインスト作「Pra Essa Gente Boa」はクラウド・ファウンディングで制作されましたが、そのなかで最も大口の寄付がシコ・ブアルキからあったというのがまた粋なはなし。
META META [KIKO DINUCCI, JUCARA MARCAL, THIAGO FRANCA] (ブラジル直輸入工場製CDR二つ折りPPS 1,537円+税)
アフロ・ブラジルとアドニラン・バルボーザに端を発するサンパウロ産サンバの系譜、そして都会的な洗練とエクスペリメントなマインド。これらを唄、木管、生ギターというサロン・ミュージック的なミニマム編成で体現したのがこのメタ・メタ。ジュサーラの居たア・バルカのバンド・メイトでもある鍵盤奏者リンコン・アントニオ作のm-2"Umbigada"や、後にパッソ・トルトの1stで再録されるm-5"Samuel"など静けさの中をたゆたうように織りなす少し冒険的なアコースティック・アンサンブル。そして後半はダグラス・ジェルマノらと共作されたり、キコのペンによるアヴァン・アフロのエッセンスをセルジオ・マシャードのドラムスと共に醸し出します。
トラッド曲の斬新なカヴァー"Ora le le o" も。
では今日はブエノス・アイレスからの新譜を。
かつてフアナ・モリーナのサイドマンとして来日したこともあり、最近では陽気さと無邪気さのフォーキー女性S.S.W.ソフィア・ビオラのプロデュースも手掛けるエセキエル・ボーラ。卓越したギターの腕もさることながら、ブリキのおもちゃや管弦を用いたエクスペリメンタルな音場と不思議なメロディで誰も踏み込まないような地点に自らを投げ入れる前衛シンガー・ソングライターとして4作目となるアルバムが発表されました。
EZEQUIEL BORRA / LO PEOR (アルゼンチン直輸入盤 2,259円+税)
アコースティック実験室然とした音の冒険が詰まっていた前作「Usted esta aqui?」の続編という位置付けで制作された本作「Lo Peor」ですが、この言葉には"最悪"という意味があり、誰しもが抱く自虐的な発想や自己の内面に対する抗議を唄にしたアルバムだと云います。脱力したようなエセキエルの歌声にはニヒルな道化師のエッセンスを感じますので、まさに相応しいテーマかも知れません。冒頭のカンドンベ・ファンクとでも呼びたくなる"El blues de la guitarra" からバリトン・サックスにパーカッションと音の玉手箱状態。ブリキの太鼓とパルス音がアレックス・ムサトフ(vln)らを含む管弦アンサンブルへと変容してゆく"Hola como te va"には小学校の合唱隊が参加、イタリア映画のサントラかムード歌謡かという雰囲気の"Lo peor"にはサンティアゴ・バスケスが、中米あたりのエキゾチックな風景を想起させるラテン・ルーツ調の"El anti hit"にはトミ・レブレロ(bdn) と病院のコーラス隊が、優しげなララバイのように聴こえる"Corazon en la trinchera"にはフォルクローレ界からベテランのリリアナ・エレーロ(vo)とペドロ・ロッシ(g)が参加というように、厚い人望を感じさせる大勢の参加メンバーと共に繰り広げるめまぐるしい音絵巻。先述の学校や病院、ワークショップに売上の一部が寄贈されるというベネフィット作品でもあります。