冬の噺 + ヴァングアルダ・パウリスタ直系のサウンドでクリチーバ娘が父の作品を
「おお、これはよい口直しだな。煎じ薬の口直しはこれに限るな。ああ、よい心持ちじゃ... これ、煎じ薬をもう一杯注げ」
「へぇ?」
「おいおい、もうございませんと断っちまいなよ。きりがねえや、もう一杯もう一杯とみんな呑まれてしまっちゃあしょうがねえ。また(火廻り当番で)ひと廻り廻って来た時に、あたしたちの呑む分が無くなっちまう。え?断んなさいよ」
(中略)
「まことにお気の毒様ですが、もう一滴もございません」
「ないとあらばいたしかたがない、しからば拙者もうひと廻りしてくるから、二番を煎じておけ」
冬の噺として有名な落語の「二番煎じ」、好きな噺です。火廻り当番の商店主たちが寒くてやってられないと酒や鍋を持ち込んで隠れてやっているところに、今で言うお役人の武士が訪れ、酒と知りながら「煎じ薬をもっと寄越せ」と要求する、この横柄さの中にも洒落が効いているのが微笑ましい処です。ふと昨日の寒さからこの噺のことを思い出したので引用してみました。噺の中だけかも知れませんが、お代官にも洒落が通じるような世の中が良いなと思う次第です。
さて正月に聴き込もうとして、ようやくここ何日かで噛み砕くことができた新譜を紹介します。
カエターノ・ヴェローゾ、アルナルド・アントゥネス、イタマール・アスンサォン、これらブラジルの音楽史をつくってきた錚々たる面子とコラボレイト、楽曲を採り上げてこられたクリチーバの作家/詩人/教授パウロ・レミンスキ。80年代末に亡くなっているのですが、生きていれば丁度70歳ということで、父と同じくもの書きとして、ミュージシャンとして活動する実娘のエストレラ・ルイス・レミンスキが現代のサンパウロのミュージシャンたちと父の作品をトリビュート。80年代のムーヴメント - ヴァングアルダ・パウリスタ直系のヒネリの利いたロックンロールへ仕上がっています。エストレラの夫テオ・ルイスがegで、ex.TP4、現シナマンテスのふたり(ナタリア・マロ b、マリア・ポルトガル drs) らがオス・パウレーラなるバンド名でクレジットされている他、ナー・オゼッチ、アルナルド・アントゥネス、ゼリア・ドゥンカン、ウヤラ・トヘンチ(バンダ・マイス・ボニータ・ダ・シダーヂ)、レオ・フレサットらがゲスト参加。
ESTRELINSKI E OS PAULERA / LEMINSKANCOES (ブラジル直輸入盤2枚組CD 3,648円+税)
パウロ・レミンスキの遺した音楽作品を現代のミュージシャンたちがリノベイトした全く新たな音楽作品が本作。パウロと女流詩人アリシ・ルイスの間に生まれ、現在30代半ばを迎えるエストレラ・ルイス・レミンスキは夫でギタリストでもあるテオ・ルイスとデュオ・アルバムも発表しています。現代らしくレゲエのバックビートや、フォークトロニコのエッセンスも採りいれたりしながらのロックンロール。所々にブラジルらしさが顔を覗かせます。ロックンロールに根差したエクスペリメントなMPBの先達、アルナルド・アントゥネスとのデュエットで披露するm-5"Nao mexa comigo"、瑞々しいアルペジオと遠鳴りするアコーディオンのハイブリッド・フォーキー・チューンm-7" Se houver ceu" はゼカ・バレイロがvoを、パウロ・レミンスキ自らの音源から恐らくはテープ起こしで収録したm-13"Valeu" はまさにアコースティック・ブルース、カンドンブレ状に打楽器アンサンブルとコーラスのみで構築したm-14"Adao" まで、シアトリカルな佇まいとまろみが共存するエストレラの唄声の質も相俟って、唯のロックンロール・アルバムという枠に収まらないDisc1。ナタリア・マロの唄うエクスペリメントなm-1"Diversonagens susperas" に始まり、イタマール・アスンサォンとパウロの共作曲"Dor elegante" はエレクトロニクスも用いたポップ・チューンへと改変、ゼー・ミゲル・ヴィズニキとパウロの共作曲m-3 "Sinas de Haicais"はゼリア・ドゥンカンが、シェイクスピアの詩作にパウロが曲を付けたm-5"Transformer"はナー・オゼッチが唄い、ガレージ・サウンドにポエティックなことばが載るm-6"Hard Feeling"には作者イタマールの娘(アネリスの姉妹)セレナ・アスンサォンが参加、エストレラの同郷クリチーバのミュージシャンでウラヤ・トヘンチ(バンダ・マイス・ボニータ・ダ・シダーヂ),レオ・フレサット、ベルナルド・ブラヴォらがコーラスを担います。半数程の楽曲でプロデュースを務めるフレッヂ・テイシェイラがヴォーカルを採るm-7"Hoje Ta Tao Bonito"、クンビアとアフロ・ブラジルが入り混じったm-9"Sou Legal Eu Sei"にはベルナルド・ブラヴォが再登板... と詩的でインテリジェントな雰囲気を漂わせながらも多彩なスタイルのヴォーカリストが入れ替わり登場するのがDisc 2。
- 2015.01.30 Friday
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- 16:23
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