5人の男性S.S.W.が一同に会し、一緒に演奏し唄う。それも主に自作の新しいブラジル音楽を。サンパウロで興るこのノヴォス・コンポジトーレス。以下説明します。女性歌手ダニ・グルジェルがベテランのブラジル音楽/ジャズ・グループ - ジンボ・トリオが設立した音楽教育機関 CLAM の同窓生らを中心に、ダニ・グルジェルとノヴォス・コンポジトーレスというショー・シリーズを開始、後にスタジオ録音のアルバムとなったのが「Agora」です。ダニ・グルジェルのライヴ盤DVD「Viadutos」のショー・ディレクターを務めたヴィニシウス・カルデローニを発起人に、共に互いのソロ・アルバムで互助関係にあったト・ブランジリオーニ、この二人と共作を行ないダニ・グルジェル「Nosso」に"laco na lua" を曲提供しているレオ・ビアンキーニ。イヴァン・リンスの孫でタチアナ・パーハがアルバム「Inteira」で唄った"Abrindo a Porta "の作者(本作でもセルフ・カヴァーしています)でダニ・ブラッキ「Dani Black」"Vem" の共作者ペドロ・アルテーリオ、作曲者のセルソ・ヴィアーフォラを父に持ち、女性歌手ブルーナ・カラン「ferido pessoal」に”Galdalhadas"(P.アルテーリオと共作、本作でもセルフ・カヴァーしています)を曲提供しているペドロ・ヴィアーフォラの5人で構成したのが5 a seco (シンコ・ア・セコ)。
元は5 a seco を構成する一員だったダニ・ブラッキと戸外の庭で"Juntos Outra Vez" をセッションしたり、イヴァン・リンスと父親セルソ・ヴィアーフォラがコラボした"Todo mundo"を演奏したり、ショーにゲスト・ヴォーカルで参加するマリア・ガドゥ、シコ・セーザル、レニーニも音楽的な理由があってこそのロジカルなゲスト参加というのがよく分かります。ショーの最終曲にイタマール・アスンサォン”Vida de artista"をやったり、生まれ育った家の屋上で弾き語るレオ・ビアンキーニなど、幾つも印象的な映像が収録されており見応え充分。さすが音楽都市サンパウロ市役所の後援、そしてファトル銀行の協賛。新たな発想を理路整然とクレバーに表現した最高のプロジェクト。
ペドロ・マリアーノも歌ったト・ブランジリオーニの作”Pra voce dar o nome"。DVD本編とは異なる映像ですが素晴らしい佳曲です。
エストゥヂオ・ショウリヴリ出演時の"Abrindo a porta"。DVD/CD商品の本編では更にバランスの良いミキシングが施されています。
洗練されたジャズ・ピアノの技法、確固たるブラジル音楽のリズム・フィールの中にクラシカルな和声も採りいれて。アミルトン・ゴドイらにピアノとオーケストレーションの師事を受けフルートも習得、ピアノ・トリオ - トリアロゴで活動(アルバムを'04にリリース)する一方でジンボ・トリオによる音楽学校 CLAM の講師を務め、ノヴォス・コンポジトーレス(新しい作曲家たち)の輪の中で活躍するダニ・グルジェル(実娘)や、ト・ブランジリオーニを育て上げています。またダニ・グルジェル「Nosso」や「Viadutos」、アドリアーナ・ゴドイ「Marco」などMPB 唄ものでみられるオーケストレーション、ピアノ・アレンジの素晴らしさには定評があります。さて、デボラ・グルジェル初のソロ・アルバムは、軽やかなサンバ・ジャズから、ショーロ・スタイル、ボサ・ノヴァ、バイーアォンにマラカトゥのリズム、とブラジル音楽の魅力を余す事なく滑らかで優雅なピアノ・ジャズのフォーマットで演奏してゆきます。シヂエル・ヴィエイラ(contrabass) 、そしてダニのパートナーでもあるチアゴ・"BIG"・ハベーロとのピアノ・トリオ編成から、フリューゲルホルンや木管楽器の室内楽アンサンブルを従えたもの、デボラひとりで世界を完結させるピアノ・ソロ曲まで様々な編成が試みられています。殆どが未発表・書き下ろしの曲で構成されており、m-1 "Pros Mestres"では尊敬するアミルトン・ゴドイ、セーザル・カマルゴ・マリアーノ、チック・コリア、ピシンギーニャの名を挙げ、これら先輩作曲者/鍵盤奏者たちに捧げられています。m-4"Ate Onde A Alma Leva"ではダニ・グルジェルの多重スキャットが流麗に澄んだメロディを口ずさめばデボラが裏で心地よい対旋律を。続くm-5"Clara da lua" ではドビュッシーの"月の光"を引用した旋律をヴィトール・アルカンターラ(ss)と分かち合い情感を揺さぶる美しい風景を描き出します。この2曲の優美さこそがデボラ=ダニ母娘の音楽真骨頂。またジョビンの"Chora Caracao”を引用したm-6"Despedida"(=別れ)ではダニが自身の詩作と共に唄で参加、夜の帳が降りるような静々としたムードを演出します。ハービー・ハンコック”Butterfly"を曲中に引用・発展させたm-7"Das Americas" ではドラムスがクカ・テイシェラに替わり、金管ブラスと共にゴージャスなジャズ・アンサンブルを。ダニ・グルジェルのアルバム「Nosso」「Viadutos」でも重要なポイントとなる佳曲”Neneca" はコントラバスが主旋律を唄うインストゥルメンタル・ヴァージョンとなって収録。m-9"Encrenca"でも金管ブラスを伴って再度ダニ・グルジェルの唄が聴かれます。