憂いを携えたサンパウロの文芸的SSW
PELICO / que isso fique entre nos (ブラジル直輸入盤 2,100円税込)
のっけから音数の少ないギターに哀愁を帯びた物憂い唄声がクラリネットとファゴットの音色を追随させ、単なるフォーキーなシンガー・ソングライターものとして片付けられない唯ならぬムードを醸し出します。そして"ainda nao e tempo de chorar" (=まだ嘆き悲しむときではない)という意味深な曲タイトル。本作で3作目となるペリコのアルバムは、ポルト・アレグリ出身ガウーショの偉大な音楽家として知られるルピシニオ・ホドリゲス、作家のネルソン・ホドリゲスらの影響を公言しています。そして'70年代ー'80年代にこの世を去った彼らからの影響を通して見えてくるのが、ジャック・ブレルらのポエティックな表現方法に通じる、人の心理深層までをも見据えた内省的なモード。プロデュースやベースの演奏をカントリー・サーフ・パンクを自負するベテランのバンド -ロス・ピラータのジェズース・サンシェズが担当、要所で見られるストリングスの編曲はマエストロ - ブルーノ・ボナヴェンチュヒが担当。キュートなアレンジに惹かれるフォークトロニコ珠玉の逸曲"levarei"("どこに行こうとも/どこに一歩を踏み出そうとも/僕は君の笑顔を連れてゆくよ/”)でヴィンテージなワーリッツアーを演奏するのは映画音楽などを手がけるトニー・ベルシュマンス。彼はアコーディオンも演奏しています。情感に訴えかける新世代のロックを体現した"recado"にヴァイオリンと共に登場するミニマリズムを追求したクランチ・トーンのeギターはポストロック/エクスペリメンタルを採り込んだ先鋭的なサウンドで知られるシダダォン・インスチガードのヘジス・ダマシェーノによるもの。トン・ゼーらサンパウロの重要作品に制作で、打楽器で必ず関わっているギリェルミ・カスチフッピも本作に参加しています。"tempo de crianca"(子供のとき)で見せるユーモラスに頬を緩めた表情、チューバが2/4拍子の戯けたリズムを吹き鳴らし、管楽のみで構成した"a beira do ridiculo"(嘲笑の痛烈さに)などなど....全16曲、少ない音数のなかで適所の魅力を放つ意外性に満ちたサウンド。そしてペリコによる情緒たっぷりの唄たちが50分に渡りあなたの耳を惹き付けて止みません。
- 2011.11.27 Sunday
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- 15:38
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